二〇二一年九月一日 「加藤思何理さん」
加藤思何理さんから、詩集『おだやかな洪水』を送っていただいた。おしゃれなつくりの詩集だ。さまざまな方向性をもった詩篇が並んでいる。物語性をもった詩篇が多く、現実の生活と離れたものもあって、小説のような感じの詩篇も多くあった。
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中国の臓器狩りが話題になってるけれど、SF作家のラリイ・ニーヴンが小説に書いてた通り、国家が臓器狩りをしているということだ。悪夢のような世界だ。
二〇二一年九月二日 「断章」
夜が明けると、夫人は水と自分のあいだにいったいなにがあるのか確かめてみようと思って、ひとりで噴水のそばに行った。水面に目をやったとたんに、自分の視線を通してある考えが流れ出てゆくように感じられた。(そのとき、マルガリータ夫人は次のような言葉を口にした。『それは、今となってはべつに名づける必要もない考えでしたの』ひとしきり咳こんだあと、こう続けた。『いじりまわしすぎて自分でもわけの分からなくなった取りとめのない考えだったのですが、それがゆっくり沈んでいったので、そのままそっとしておきました。わたしが水のなかから引き出した思い、自分の目と魂を満たしたさまざまな思いは、そこから生まれてきたのです。そのとき初めて、人間は水のなかで追憶を養い育ててやらなければならないのだと悟ったのです。水というのは、自分に映し出されたものを磨き上げるだけでなく、人間の考えも受けとめてくれるのですね。絶望してもけっして水に肉体をゆだねてはいけません、考えを水にゆだねるのです。すると、水はそのなかに浸透してゆきます。そうして生まれ変わった考えが、わたしたちの人生の意味を変化させるのです』以上が、おおむね夫人の口にした言葉だった)。
そのあと、夫人は着替えをすませて散歩に出かけた。遠くに小川が見えたが、最初はそこに水──夫人がこの世界で心を通じ合える唯一のものである水──が流れていることをどうしても思い出せなかった。川岸に着き、流れを見つめた。けれどもすぐに、そこの水が自分のほうに向かって流れていないことに気づいた。それだけでなく、夫人の思い出をはるか遠くまで運び去り、消し去ってしまいかねないように思われた。(…)その馬を見て、夫人は祖国の水を飲んでいる馬のことを思い浮かべ、同じ水だけれど、あちらの水とはずいぶんちがうのだろうと考えた。
(フェリスベルト・エルナンデス『水に浮かんだ家』平田 渡訳)
二〇二一年九月三日 「断章」
彼、あらゆる精神の中で
然りと肯定するこの精神は、一語を語るごとに矛盾している。彼の中ではあらゆる対立が一つの新しい統一へ向けて結び合わされている。
(ニーチェ『この人を見よ』なぜ私はかくも良い本を書くのか・ツァラトゥストラかく語りき・六、西尾幹二訳)
二〇二一年九月四日 「柴田望さん」
柴田 望さんから、同人詩誌『フラジゃイル』第12号を送っていただいた。なつかしい方のお名前もちらほらと見えて。
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二〇二一年九月五日 「断章」
最も重々しい運命、一個の宿業ともいうべき使命を
担っている精神が、それにも拘わらず、いかにして最も軽快で、最も超俗的な精神であり得るか──そうだ、ツァラトゥストラは一人の舞踏者なのだ──
(ニーチェ『この人を見よ』なぜ私はかくも良い本を書くのか・ツァラトゥストラかく語りき・六、西尾幹二訳)
二〇二一年九月六日 「
宇宙翔けるもの」
『世界SF全集 第33巻 短篇集 ソ連東欧篇』の1作目は、イワン・エフレーモフの「
宇宙翔けるもの」ファースト・コンタクトもの。宇宙空間で互いに宇宙船の速度を落とし、近づいたものの、相手の生命体が弗素を基礎とするものであることがわかり、直接接触することなく、情報のみを交換するのであった。友情のようなものを感じつつ別れる。
二〇二一年九月七日 「悪魔物語・運命の卵」
きょうは、お金持ちの友だちにランチをご馳走になり、丸善で本まで買ってもらい、しめに、イノダコーヒーもご馳走になった。買ってもらった本は、ブルガーコフの『悪魔物語・運命の卵』岩波文庫だ。「運命の卵」は、新潮文庫『犬の心臓・運命の卵』と『ロシア・ソビエトSF傑作集』下巻で読んでいる。
二〇二一年九月八日 「丸田麻保子さん」
丸田麻保子さんから、個人詩誌『黒々と透明な』第3号を送っていただいた。さまざまな題材を扱ってらっしゃって、いずれも抒情がある。ここ数年、新しい詩をつくっていないのだが、つくりたくなった。
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二〇二一年九月九日 「悪魔物語」
ブルガーコフの「悪魔物語」を読んだ。不条理劇のようだった。主人公が身分証明書を盗まれて、そのあとは登場人物すべてが気が違っているかのような行動をし、主人公もさいごは建物から落ちて死ぬ。分身物語ということだけど、そこのところはほとんど描かれておらず、物語としてはおもしろくなかった。
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二〇二一年九月十日 「運命の卵」
「運命の卵」は新潮文庫の『犬の心臓・運命の卵』と、SFアンソロジー『ロシア・ソビエトSF傑作集』下巻で読んでるから、岩波文庫のはもう読まない。傑作だったことは記憶している。おもしろかった。
二〇二一年九月十一日 「創造の第一日目」
2作目は、ゲオルギー・グレーヴィッチの「創造の第一日目」23世紀の太陽系が舞台。宇宙船で天王星を爆破して地球と同じ環境にするというもの。だるい叙述でまったく面白くなかった。
二〇二一年九月十二日 「断章」
これまでにあった最も強大な比喩の力も、言語がこのように具象性の本然に立ち
還った姿に比べるならば、貧弱であり、児戯にも等しい。
(ニーチェ『この人を見よ』なぜ私はかくも良い本を書くのか・ツァラトゥストラかく語りき・六、西尾幹二訳)
二〇二一年九月十三日 「桑田 窓さん」
桑田 窓さんから、詩集『52時70分まで待って』を送っていただいた。言葉はていねいにつづられていて、屈折や切断といった現代詩の安直な技法はいっさい使われていない。その作品たちはわかりやすいものものばかりだった。ぼくより10歳近くお若い方だった。
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二〇二一年九月十四日 「夢」
壮絶な夢を見た。天皇家の若者たちが船に乗って、蛸や魚の化け物たちを退治するというもの。ぼくは記録者として船に乗っていた。蛸や魚の化け物たちは殺されると人間の姿に変化した。長時間の戦いだった。戦いが終わると都で盛大なお祭り騒ぎがあった。
書誌ブンから新しく出る、ぼくの詩集の校正をきょうからする。校正はつらい作業だ。
二〇二一年九月十五日 「断章」
われわれはもう何が形象であり、何が比喩であるかが分らない。いっさいが最も手近な、もっとも適確な、そして最も単純な表現となって、立ち現われる。
(ニーチェ『この人を見よ』なぜ私はかくも良い本を書くのか・ツァラトゥストラかく語りき・三、西尾幹二訳)
二〇二一年九月十六日 「断章」
なにが起ころうとも、おのれの強迫観念に誠実であろう。
(J・G・バラード『夢幻会社』21、増田まもる訳)
二〇二一年九月十七日 「宇宙船ボリュス号の船長」
3作目は、ワレンチナ・ジュラヴリョウワの「宇宙船ボリュス号の船長」6人の宇宙飛行士がバーナード星に行くのだが帰りの燃料が足りない。船長はバーナード星に残って5人を地球に送り出す。船長は地球の景色を思い出し絵を描く。絵は船長の遺骸とともに、のちのち発見される。という話。
二〇二一年九月十八日 「断章」
もはや睡眠が必要とせず、窓辺に腰をおろした。すべての睡眠は、おれが今日の午後にシカたちと走りまわったあの向こう岸へ到達せんとする乳児や、巣のなかの鳥たちや、老人や若者たちの試みにすぎないのではないだろうか?
(J・G・バラード『夢幻会社』21、増田まもる訳)
二〇二一年九月十九日 「断章」
そのひとつひとつの映像がおれの皮膚に記録されていった。それはおれの顔や手の光輝くフレスコ画を形づくる周囲の世界の一部であった。今日という日を穏やかに保証しているような、その間接的メッセージに気分が爽快になって、おれはとりあえずなにも身につけないことにした。まだだれも起きていないようなので、寝室をぬけだして階下の玄関にむかった。どちらをむいても、掛け布で覆われた家具たちが自分たちの再編成の順番を待ち受けていた。
(J・G・バラード『夢幻会社』22、増田まもる訳)
二〇二一年九月二十日 「秋山基夫さん」
秋山基夫さんから、詩集『梟の歌』を送っていただいた。四行で一篇の詩になっているものが100篇入っていた。どれもわかりやすいものだった。難解なものはない。それは難しいことだと思う。
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二〇二一年九月二十一日 「断章」
窒息性の蔓草が、まるで血気にはやる求婚者のように、白樺のかぼそい幹にぐるぐると巻きついた。
(J・G・バラード『夢幻会社』22、増田まもる訳)
二〇二一年九月二十二日 「人間の公式」
4作目は、アナトーリイ・ドニェブロフの「人間の公式」遺伝物質を使って、人間を合成することに成功したが、寿命が短かった。主人公も合成人間だった。主人公は長命である。血を採決して理由を調べられる。物語はここで終わる。
二〇二一年九月二十三日 「ベルン教授のめざめ」
5作目は。ウラジーミル・サフチェンコの「ベルン教授のめざめ」20世紀の終わりに、冷凍睡眠によって、生き延びることを考えた教授がいて、18000年後の地球で目覚める。人類はまだいた。
二〇二一年九月二十四日 「陽の埋葬」
陽の埋葬
死んだ妹の骨を
画布に飾ってみたら
少し歪んでいた。
二〇二一年九月二十五日 「6本のマッチ」
6作目は、ストルガツキー兄弟の「6本のマッチ」ニュートリノのビームを動物に照射して効果を確かめた後、人間に照射してみたところ、超記憶力、超計算能力、超能力が見られた、という話。
二〇二一年九月二十六日 「雪つぶて」
7作目は、M・エムツェフ&E・バルノフの「雪つぶて」タイムマシンもの。タイムマシンを使って7か月前に戻り、7か月前の自分と主人公は会話する。避けたいことがあったのだが避けられず。現代に戻ってきても、だれもタイムマシンが作動したとは思っていない。
二〇二一年九月二十七日 「『多元世界の門』と『生命への回帰』」
ロバート・シルヴァーバーグの『多元世界の門』と『生命への回帰』を、Amazon で買い直した。本棚を見てもなかったので、だれかに譲ったのだろう。シルヴァーバーグの本は譲ったりしなかったと思っていたのだが、本棚にないということは譲ったのだろう。両方で3000円とちょっとした。
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二〇二一年九月二十八日 「湾の
主」
8作目は、セーヴェル・ガンソフスキーの「湾の
主」水のなかにいるなにものかが怪物となって襲うという話。そのなにものかっていうのが、水自体のような説明になっている。
二〇二一年九月二十九日 「不可能の方程式」
9作目は、E・ヴォイスクンスキー&I・ルコジヤノフの「不可能の方程式」宇宙船が惑星に着陸する。そこには恐竜やロボットのほかに知性生物から退化したような白痴たちがいた。白痴たちがふたたび知性を取り戻すだろうかどうだろうかというところで物語は終わる。作品としてはつまらないものだった。
二〇二一年九月三十日 「予備研究」
10作目は、イリヤ・ワルシャフスキの「予備研究」年に1000種類のSFを機械が生産する。科学者の主人公は、会社から高給で雇われている。突飛なことを考えるだけでいいのだ。あとは機械がしてくれる。というわけ。
二〇二一年九月三十一日 「伊藤芳博さん」
伊藤芳博さんから、エッセイ集『僕は、こんなふうに詩を読んできた』を送っていただいた。たくさんの詩が引用されていた。たくさんの個人がいたということがわかった。
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『世界SF全集 第31巻 短篇集 古典篇』を Amazon で買った。本体価格2500円だった。ちょっと高いかなと思ったけれど、古典篇は入手困難なものだから、いいかと思った。
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8CSF%E5%85%A8%E9%9B%86%E3%80%88%E7%AC%AC31%E5%B7%BB%E3%80%89%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AESF-1971%E5%B9%B4/dp/B000J98C02/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%EF%BC%B3%EF%BC%A6+%E7%AC%AC%EF%BC%93%EF%BC%91%E5%B7%BB&qid=1632929391&s=books&sr=1-1…
Amazon のネット古書店で購入した、ロバート・シルヴァーバーグの『生命への回帰』が到着した。並の状態かな。
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