燃えているか、リトルタウン
ホロウ・シカエルボク


静寂を恐れているみたいに
世間は騒ぎ続けている
みんな自分のことを考えたくないのさ
小虫のようにまとわりつく真実のかけらのことを


街灯に拘束されたスピーカーからは
イージー・リスニングにアレンジされた
パワー・トゥー・ザ・ピープルが流れてる
自動販売機で誰かが飲物を買う
地下駐輪場の入口で
誰かの恋愛相談にずっと答えている太った女
あのスマホが
誰とも繋がっていないのでは訝っているのは
俺だけじゃないかもしれない


みんななにを探して歩いているんだ
代り映えのしない小さな街の中
消費される日々の中で
制限された思考をぶら下げて
ほとんど同じものしか入らないマイバッグを持って
根拠のない希望の歌をカナル型で注ぎ続けている
大切なのは
自分を信じることではなく肯定すること
そんな定義を難なく受け入れられる
脳味噌の中ではどんなパーツが欠けているんだろう


恵まれない子供たちのために
五人の大学生と思しき男女が募金活動をしていた
俺はちょっとした気まぐれで五百円玉を入れた
「マジか」と近くにいた摩耗した箒のような金髪の若者が呟いた
ただ、自動販売機がその近くにあったから
財布を手に持っていただけのことだ
善意なんてそんなくらいがちょうどいい
殊更に清らかな善意は無遠慮で押しつけがましい
他人を利用しなければ
語れないポジティブになど俺は興味がない


人間は必ず
光と闇のハイ・ブリッドだ
そんな混合オイルを燃やして動くのだ
そうさ
前に進めるならどんなものでもいい
それがたとえおいそれとは口に出来ないような薄暗い気持ちだって
火をつけて燃え上がるなら持っておいて損はない
ねえ、あんた
なにが言いたい
希望はいつだって無責任なものだぜ
あんたのそんな言葉のひとつひとつが
世界を窮屈にしてきたんだっていい加減気付くべきだぜ


俺は自分が褒められたもんじゃないって理解してる
標本になる気なんかさらさらないのさ
すべてを飲み込んで生きる気にならなくちゃ
愚かさや醜さから逃げたり
そいつを悔いて思い悩むよりはさ
綺麗なツイートなんか聞き流しておきな
あいつらだって本当はそんなにイカシた人間じゃない
俺は醜さもどうぞって見せてやるぜ
でもその辺にごみを捨てたりするような真似はしない


どいつもこいつも神経症的に
塵ひとつない環境を欲しがって
致命的にバランスを失っている
他人のことに口を挟めるのは
自分を疎かにしてるからさ


後生大事に守り抜いてきたものを一度床に置いて
本当に手にしたいものはなんなのかじっくりと考えてみちゃどうだい
狙いをつけて追い求めなければ絶対に見えてこないもののこと
そこらへんで手に入る言葉なんか嘘っぱちだって気が付いたほうがいいぜ
俺は自分の中にある
あらゆる面について語る
正直さってそういうことだ
嘘を嘘だと言いながら差し出したってそいつは正直なんだ
お前は逃げてばかりいる
社会に定められた
リミッターからはみ出すのが怖くて仕方がないんだろう
社会の為に人間が集まってしまうから陳腐な集団が出来上がってしまう
確率された個々の人間がシステムを利用してこその社会なんだ


枠の中で生きている奴らを俺は必要としない
でも彼らは俺も彼らのようにやらなくちゃいけないって言うのさ
そうしない俺が良くないって心から思ってる
その昔、国の為に
戦争に出かけていった人間っていうのはきっとこんな連中なんだろうな
もしも俺が戦争に行ったときは
誰かの為とかそういうことじゃなくて
合法的に人が殺せるっていうシステムへの興味だって思って欲しいな
殺されても仕方のない場所って
こうして暮らしているよりはもうちょい有意義な悟りがありそうなもんじゃないか?
まあ、もちろん
真っ先に手を上げるような真似はしやしないけどね


そうさ、お前に出来ることといったらいつだって
他人がやってることにケチをつけることだけさ
自分自身でなにかを生み出すことなんて一生ないんだ
そいつは安全パイには違いないが
代わりにどんな成長を手に入れることもありはしないのさ


さあ、一休みをやめて
もう少し歩いてみようか
イズムと目的次第で景色は見え方を変える
見たものが囁いてくれる事柄を
出来るだけ多く心に留めておくんだ
世界はますます愚かに小さく縮んでいく
流れに乗るのは得策とは言えないぜ
距離の取り方を学んで
着かず離れずで見つめ続けるんだ
はたから眺めてる分には
蟻地獄ほど面白い見世物はないんだってきっと気付くことが出来るさ


台風が近づいている
辺りはうだるような湿気に包まれてる
イズムのないパレードの中を
ほんの少し、人生で身に着けた疲労みたいなものをまとって
路面電車の駅の横を擦り抜ける横断歩道を南へ渡るとき
俺はきっと死ぬまでそんなことにこだわり続けるんだろうという気がした
そんな優越感は愚かで醜いものだって他人は言うけど
あいつらはきっとそんなものがまるでない自分の
弛んだ身体を素敵なものだって本気で思っているんだろうな




自由詩 燃えているか、リトルタウン Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-09-04 21:55:00
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