夜鷹のキナメリさんのこと
板谷みきょう

精神病棟の患者、職員に観劇して貰う為
ボクが宮澤賢治の童話『よだかの星』を
戯曲にしたのはいつのことだっただろう

よたか役は
臨床心理士のキナメリさんにお願いし
星に向かって飛んでいく最後の場面

落ちているのか
のぼっているのか
さかさになっているのか
上を向いているのかも
わからなくなって
そうして
自分の体が青白く静かに光ってると
気付いた最後のセリフに一呼吸あって

「あぁ。」から始まるセリフ

ユーミンの「春よ、来い」が
流れてくる一番のシーンを
しつこく何度も稽古したのは
戯曲・演出担当としての
最低の責任だからだった

そうして迎えた本番
キナメリさんは
何度も練習したはずの
一番大事な場面のセリフで
タイミングを逃し
外してしまった

ボクは全くもって本当に
がっかりしたのだ

大失態を演じたはずだったのだ
けれども
終演後、思いもよらず
大きな拍手が続いた

それから数年して
キナメリさんは
北海道警察の
少年心理専門官になった


自由詩 夜鷹のキナメリさんのこと Copyright 板谷みきょう 2022-08-29 21:38:00
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