わたしとあなたとだれか
ただのみきや
わたしは太陽を取り出した
黒アゲハで覆われた
生まれる前の静かな光を
誰かのノートの上で風が踊っていた
人の総体としての手その指の間からこぼれ落ちて
地図上にはなにもない
埋もれた時の痛点ばかり
遠いいのちの残響は手あたり次第に指紋を残した
裏返された朝の光に袋詰めにされて
ひとつの死がまだまだもぞもぞしている
あなたは舌の幽霊と踊るように階段を駆け上がる
雨を呼ぶ心臓 藍色のしたたり
百合のようにそり返って羽ばたいて
すべての認識と未一致のまま
大気を裂いて砕け散ったモザイク
時間の殻に置き去りにした
ことばで誰かがチェスをする
ことばで誰かがままごとを
《2022年8月21日》