居酒屋あらわる
うめバア

商店で見た山崎パンの
バターケーキが豪華に見えた
電話ボックスに置かれた缶コーラに
毒が入っていたニュースが怖かった
ユリゲラーがスプーンを曲げたかと思うと
あのカルト教団の教組が宙に浮いていた
睡眠学習のテープで成績が上がるらしい
そういうガチャガチャのなかで
なんとなく勉強しないまま
8月が過ぎた

30年、40年なんてあっというまだ
あの八百屋も、隣の肉屋も、この町を出た
明日もまたシャッターをあけるだろうと
なめてかかっていた間にだ
意地悪だと評判だった薬局もやめた
大家さんだった商店は
コンビニにはならないまま
3年前に閉じた
夢のスペースだったビル
ぼろぼろになった屋根とベランダ
あんがい、小さかったな
ああ、年をとったんだ
地元に帰るたび
そう、感じさせられるあの場所

だが今年、あの場所に異変が
薬屋の空き店舗が
なんと居酒屋になっている

もうけ度外視ってやつなのか
社会貢献の一環か
地域おこしか
はたまたナニか

よくわからない
よくわからないけど
居酒屋あらわる

道路の向こうから、そっと居酒屋を覗くと
まだ開店前らしき、その奥で
夫婦とおぼしき男女が店をこしらえている
いぶかしげに覗いているこちらに
妻らしき女性が気づく
あ、気づかれたと
やり場なく、やや会釈
妻らしき女性も
こくんと、会釈
やばい呼ばれる
彼らはもしや
幻を見せるキツネかも
行ってはだめだ、いかんいかん
慌ててその場を立ち去る

しかしそれは
幻ではなさそう

居酒屋あらわる
消えるな居酒屋




自由詩 居酒屋あらわる Copyright うめバア 2022-08-20 00:13:03
notebook Home 戻る