山の細道
山人
山が私を待っているわけではない。山の作業が私を待っているのである。
朝からミンミンゼミは鳴いている。
心の洞窟に蝙蝠がぶら下がり、鬼蜘蛛がのそりと動く。
湿気のある岸壁に苔がむし、カマドウマのような虫がおそろしい脚力で飛び跳ねる。
洞窟の中で膝小僧を抱えてはひとしきりため息を吐いては、原始の森の外を眺めているのだ。
山の細道は念入りに草丈を増して、夏の暑さに酔いしれていることだろう。
暗記してしまった言葉を意味もなく繰り返す、虫たちの宴が燃えている。
漂う、一介の山岳労働作業者、右往左往するでもなく入りこんでいく。
その様子を誰も見ることはない。