ナパーム岬
atsuchan69

鳥のように
花のように
深く静かに、
風が死んでいる
湿った潮気とともに
蒼いナパームの花の匂いが
甘く立ちこめていた
融けた日付が
なぜかナパーム岬を過ぎても
ヒロシまだ帰らない
繰り返し、
マンドリンを掻き鳴らし、
小さなバッタ、
バッタとシンデレラ
咲き乱れる、ナパーム、
忘却の夏が華やかに燃える
淡い影たちの
真昼のしのび逢い
遠い夜の、露わな息と息が
火照った肉体を
さらに、さらに滾らす
銀河に轟く一瞬の華、
昼も夜も
果てのない凶器、
崖を雪崩落ちる豚の群れ
咲葵、裂き、
ふたたび大輪の花火、
静寂と呻き声
マンドリンを掻き鳴らし、
鉄骨を覗かせたドームを背に
あやまちは、
過ちを、
ただ棒読みで復唱し、
飴のように融けた日付が
痛ましくナパーム岬を過ぎても
ヒロシまだ帰らない


自由詩 ナパーム岬 Copyright atsuchan69 2022-08-07 05:57:05
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