断片集「ト書き」
簑田伶子
一.
よくないものを
無知で繕うと
いいもののようにみえた
夏
汗にふちどられて
境界線が消える
二.
問いへ向かう旅
解1・(虹はなぜ虫へんなのか)
解2・どんなにはやく走れても
滑走路がないから飛べない
三.
【人物造形メモ】
静謐な、と形容されたことがあった
檻のような字に圧倒されているうちに
だんだんと粘度が落ちていき
次第に精悍になった(立ち姿がいちばんよい)
四.
〈嫌いなことばを使った例文〉
普通なら素手でつかめないものが
いつもつかめたから
器用なのだと思い違いをしていた
実際には手が小さいだけだった
だから芝居のしようがない
五.
余白を観測するために記録をつづける瞳
六.
本は
湿気にみちていた
黴びていたりして
とくべつなにおいもした
秘密に似ているから
わからなくてもいい
ただそっと
閉じたい