水と焦土
木立 悟
長い水の針の影
口から羽と血を流し
すべての鍵盤に蝋燭を灯し
弾いては倒れ 弾いては倒れる
指の動き 空気の根
傷の痛さ 爪の長さ
腕ふるわせ 指ふるわせ
空の底の底を仰ぐ
太陽が散っては戻り
散っては戻り散っては戻り雨になる
背を向けると虹になり
海へ海へと遠去かる
川の帰りを待っていると
虫ばかりが寄ってくる
かろうじて見える南から
冷たさが近づいてくる
ひっきりなしに降るものは何
ひっきりなしに降るものは無い
角は多いほうがいい
尾も多いほうがいい
低く大きな音がとどまり
震えを残して去ってゆく
壊れた棲み処を直す蜘蛛
茎の上の午後を聴く
たくさんの目に見つめられ
羽は崖の径を曲がる
誰も誰も追っては来ない
何も何も行方には無い
明るく荒んだ小さな風
岩のにおいと種を運ぶ
坂の途中にはひとつの音
常に冬をまとう音
雨が来て
水たまりが来る
映るものは去り
また ひとりになる
岩と川を染める音
ぽつりぽつりとうたこぼす手のひら
ひとりだけが揺れている
ひとりだけが受けとれない
山々のはざまにくすぶる影
途切れた径を越える曇
生えはじめた草を踏み
水辺を描く素足を見る