音楽の記憶
ひだかたけし

意識の底に落ちていくような
渦巻く響きの海にいる
たましいは肉を離れ
渦巻く響きに同化する
打ち鳴らされる変則的なビートに乗って
遠い記憶に沈んでいくわたしという存在

成就されない愛を沸き上がる郷愁に浸して
憧れと哀しみの透明なうねりに呑まれ
広がる異郷の世界に到達する

片眼の巨人が表層を滑っていく
響きの渦が意味を形作り
忘却されていた魂の震えが蘇る

崩れ落ちる氷河の上にあの子がいる
崩れ落ちる氷河の上にあの子がいる

僕と君、浅間山に向かい
ひたすら石を投げていた夕暮れ
祈るように、一つになれるように
幼い白手を吹き抜ける風にさらし
あの子と横並び
ひたすら石を投げていた夕暮れ

成就されない愛が記憶の底に潜む
円環を描く響きの海に
わたしという存在が呑まれていく

あの子は私と同時に席を立った
あの子は私と同時に席を立った
遠く教室の向こうで、遠く教室の向こうで








自由詩 音楽の記憶 Copyright ひだかたけし 2022-07-18 19:28:11
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