音楽の記憶
ひだかたけし
意識の底に落ちていくような
渦巻く響きの海にいる
たましいは肉を離れ
渦巻く響きに同化する
打ち鳴らされる変則的なビートに乗って
遠い記憶に沈んでいくわたしという存在
成就されない愛を沸き上がる郷愁に浸して
憧れと哀しみの透明なうねりに呑まれ
広がる異郷の世界に到達する
片眼の巨人が表層を滑っていく
響きの渦が意味を形作り
忘却されていた魂の震えが蘇る
崩れ落ちる氷河の上にあの子がいる
崩れ落ちる氷河の上にあの子がいる
僕と君、浅間山に向かい
ひたすら石を投げていた夕暮れ
祈るように、一つになれるように
幼い白手を吹き抜ける風にさらし
あの子と横並び
ひたすら石を投げていた夕暮れ
成就されない愛が記憶の底に潜む
円環を描く響きの海に
わたしという存在が呑まれていく
あの子は私と同時に席を立った
あの子は私と同時に席を立った
遠く教室の向こうで、遠く教室の向こうで