みかづきの刺さる湖面
秋葉竹




山の奥の湖に
異界から来た人がながれ
ながれ着いている

旅を終えた切なさで
悲しみを掻き乱す割れた鏡さ

風に揺れる
湖面みたいにあっけなく

乱れる生

生きること
いつも
いくつも
だれかの助けを借りて
険しい山道を汗かいて登るみたいに

生きること
限りある時間を読んで
しとど濡れそぼる心に
ずぶ濡れのままに涙も遠ざける

生きること
いろいろあってもたま〜には
死にたくなっても
肩肘はらず
笑って
咲いた
清冽で
すっぱい白い花の
香気を吸って

生きること

死を
売るなんて
できない
人もいるんだし

なにも
いまの悲惨と闘ううたが
ぜってー、なわけでも
ねーだろーし

生きること

その
深さも価値もいまはもう
知らないやと
いい放ち

生きること

だれも
死なない限り生きている
わかってんだよ
あたしだって
明日死ぬか
しれねーんだよ

だから正じゃなく


大好きなんだ

雨が

降る

雨の雫が
キラキラ光ってる

生きること
病んだ心も
病んでねーやと
いい放ち

ひとり
分け入って
分け入って
濃い緑の山を
進むのだ

そのとき
幻みたいな
うたを
きっと
聴くだろう


山の奥の湖をまえに
異界から来た人が歌うと聴く

旅を終えた切なさで
悲しみを掻き乱す風に揺れる
風に揺れる
湖面みたいに

ながれている
ともしびみたいなこもりうた
愛が欠けたみかづきみたいな

そのみかづきが
突き刺さる
山奥の湖に

たどり着く
夢を
みるのは悪くはないだろう?

ちょっとしか
罪深くはないましろな花みたいな
もう
終わってしまった
綺麗な悲しみ、みたいな














自由詩 みかづきの刺さる湖面 Copyright 秋葉竹 2022-07-16 07:04:01
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