知らない国の大きな太鼓
竜門勇気


曲がった声の刺さった羽のなかで
切り分けられて爪をたてられたとき
本当に、本当に
どこか遠くに来たんだって思った

真っ直ぐなビルがあって
ひずんだ音を立てていた
夏の太陽がどこかにあるってのがわかる
足元に歯糞みたいな日差しの切れ端しかないのに
やたらと暑くて
そこら中で出来損ないのビールを売ってる

うずくまってそのまま僕は死ぬ
ビールを買う金が無いからだし
ビールを飲むために誰かをぶっ殺す覚悟ができないからだ
うずくまって顔を手のひらで擦った
心臓の音がゆっくり大きくなる
声色を変えて自分に話しかけることにしよう
いいアイデアだ
とてもいいアイデアだ

震える貝殻を家に忘れてきた
ポケットが体中に無駄な入れ物を作っていく
管の中を流れている血
思考の中で体が要素に切り分けられて
変換キーを押すごとに見るに堪えない化け物になってく
最後はついに来ないってなんだかわかってる
窓の外でカエルの口笛
転んだ女が立ち上がり方を忘れて泣いてる
犬が反吐を吐く
ナイロンの袖に火傷しそうな光が触れる
男が何人かやってきてぼそぼそと喋って
救急車のサイレン
犬が蹴飛ばされる音
大きくなる心臓の音
大きくなる心臓の音



自由詩 知らない国の大きな太鼓 Copyright 竜門勇気 2022-07-05 11:02:51
notebook Home