トランペット
乾 加津也

父を思う
なぜだか
ひとりでトランペットを吹いている

音楽が好きな父は
アコーディオンを少しやっていたと聞いた
肺活量は人より多かったらしいから
ほんとうにトランペットも吹いていたかもしれない

どんな時も唯我独尊
自分の意思を曲げなかった
母と離婚したあと一人住まいで、晩年は囲碁に明け暮れ
時々僕が電話していた
いつも「元気だよ」から始まった

父が死に
僕が父を片づけた
部屋の囲碁盤は欲しいといった弟に譲った

父の意思は僕が継いでいる
トランペットは吹けないけれど
僕も音楽が好きだから

好きなハーブ・アルパートとは違う
でも僕のなかで、父はやっぱり
ひとりでトランペットを吹いている


自由詩 トランペット Copyright 乾 加津也 2022-06-22 20:49:50
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