モブ
キリコ

軍配はあがりません。
あがらせてなるものかくらいの意気でいたいですね。
ぼりぼりと右手首の付け根を掻きながら
彼は思いのほか繊細な声で言った。聞き取りずれえってことです。意図は正しく伝わらずに、
へへへへぇっ、て、彼、なまぬるく笑った。

地獄だ。

昇降口付近で僕たちはたむろします。
大概誰においても邪魔な場所なのでいい顔はされないです。
とはいえ、存在が抑止力になることもありません。
(左耳たぶをぎゅっぎゅぎゅっぎゅつかむ)

でも、居続けます。います。
そんくらいの域でいたい。
(つかんだまま、指をこすらせながら、ひねる、

あ。
ちがうんです。
かゆいんです。
嫌だな、そんなことまで書かないで。
論点がぼやけます。
えっと、
あがらせてはなるものかという意気でいます。
とはいえ、存在が抑止力になることはありません。)


むぎゅ。

ってやってやりてえなあ。
左右が交互に
敏感になるらしくて
常にどこかの部位をつまんでいる。

あきらめて(もしくは良い口実として)
帰宅の途につく学生も出てくる中、
決して近くはない道程を超えてきた学生の中には、
いや。
別にあがりゃあいいんじゃん。
と気づいて、素通りをする者も出てきます。
その際、平べったすぎる足の甲をおもむろに踏まれて
彼は、うりrぃゅん、と恍惚の声を出します。たぶん、今はちょうど、あの部位がかゆかったんだろうな。

結果オーライじゃん。

と思ったけれど、同タイミングで反対側の甲を踏んだ者は、次の瞬間、おんなじくらい平べったくなってしまった。

地獄か。


昇降口付近で僕たちはたむろします。

、と仕切り直しをされて、はいはい。
そうでしたよね、と、こすらせながら、ひねる。のくだりを、線でしゃっしゃと消したところを、ちゃんと見せてやりながら、
ひねりすぎた粘膜からぷりゅっと出てきたアロエの中身みたいなやつが何回目かの斜陽にてらされてぷるぷる光るところを見ています。
さっきからちょいちょいとあなたも敬語がね、
ああ、そうですね、うつっちゃったなあ、
ね、うつっちゃいますよね、言葉運びって、うん。なんかわかります。うんうん。
、ってちょっと申し訳なさそうに頷いてくる感じ、何なん。

大概誰においても邪魔な場所なのでいい顔はされないです。
とはいえ、存在が抑止力になることもありません。
拾い上げた平べったいやつをもごもごとかみしめながら、昇降口、ってところが、ミソなんですよ、って、まさにミソっぽいところ、すすりながら、言う。


どこにでもありますもんね。


どこにでもあるんですよ。あ、当然ですけど、アレね、上がるだけじゃなく、下るのも、


ダメね。



って、すげえドヤ顔して言ってくるの、本当、何なん。

ああ、もう、むぎゅっ、と。

してやりてえ。



自由詩 モブ Copyright キリコ 2022-06-18 20:39:18
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