園子とその子のそのこと
末下りょう
この世に子を産み落として育てる自信など園子にはなかった
どちらの男の種かも分からないのだからなおさらだ
女の不貞は男のそれより罪深い そんな古めかしい考え方に園子は頷けなくもない
今となっては
特別好みでもなかった二人の男 そのどちらの種なのか園子には知るよしもなく いまはそれを知りたいと思う余裕すらない
オスがメスを無意識に恐れる理由があるとしたら根本にはこのへんの事情があるのかもしれないと園子はなんとなく思う
色や形の似通った家が並ぶ坂道を小刻みな足取りで下りながら園子はお腹を軽く撫でてみた
ここまで来たら子供など出来っこないと思っていた
周りの友人ともそんな軽口を叩き合ったりしていた
神経質なヒールの音だけが響くはりつめた早朝の町から逃げるように園子はバス停に向かい
十一月の冷たい風がまばらな勤め人や学生たちの髪や衣服を揺らしている
時限爆弾になったような気分で園子は静かな列の最後尾に溶け込んだ
時刻表通りに到着したバスのステップに足をかけて 一人分の運賃を投げ入れると 運転席のすぐ後ろの席に座って背筋を伸ばす
園子とその子のそのことを乗せたバスは 信号の少ない道に出た途端スピードをぐんぐんあげていく