ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない
奥畑 梨奈枝

ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない
ホッとした後に生活なんか送れるのだろうか
眠れない夜に読書をするなんていうのは
かえって明日が怖くなる

毎日裏切り者たちと仕事を共にして
罰を受けたことにすら気付かない
そんな魔物たちと電車に乗る
地獄はもっと恐ろしいのか
火葬場で燃やされた人は静かだった

疲れて帰宅しても俺の場合
風呂場に悪魔が棲んでいて
洗おうとすると俺の身体は何十分も
洗われる価値を奪われて
閉じ込められてしまうのだ
塗り込まれた記憶が
染み出してくるように
何も見えなくなる
その後
恐怖で冷えた身体で
冷めた湯船に浸かって
それからようやく身体を拭くのだ

眠れない夜に読書をする
なんていうのは
かえって明日が怖くなる
ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない


自由詩 ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない Copyright 奥畑 梨奈枝 2022-06-13 14:18:15
notebook Home 戻る