ループ
ひだかたけし
そのとき
両脇に親が眠り
その真ん中に
自分が横たわっていた
三歳の私は夜中突然目覚め
それから眠れなくなった
〈今、両脇で死んだように眠っている親達がいなくなったら
自分はこの世界で全くの一人ぼっちだ、誰も助けてくれない!〉
なぜか狂ったように突然そう悟ったからだ
(実際には「親がいない」というリアル―「親がいなくなったら」という仮定ではなく―に私は曝されていたわけだが)
その時の「孤・独感」は
単なる一時的な気分とか子供特有の依存心とは全く関係のない
絶対的・圧倒的なもの
だった
〈孤・独〉というモノが
そこに一つの実体性を持って
確固として存在していたのだ
私は一種の臨死体験をしていたのだろうか?
しかし
あの時死体のように感じられたのは
両脇で寝ていた親達の方で
自分自身は
その息遣いも生々しく
目醒めていた
そう、
途方もなく目醒めて
いつまでたっても眠りは訪れず
代わりに
眼前の闇がその艶めく濃密さを湛えてざわざわと蠢き
「ヴゥーッ」という低く持続的なモーター音が
どこからともなく響いていて
それらが
私の脳髄を震わせ
じわじわと侵食していった
私はひたすら眼前に広がる闇を凝視し
打ちのめされていた
〇 〇
人生が一回りし
六十一歳になった今
私は自分の精神的なシェルターだった家族を離婚で失い
原因不明の心因性疼痛にかかり
ワンルームマンションで独り暮らしをしている
三歳の時に突然覚醒した自我意識
その特異な現実をしかし
今度は日常的に生きているわけだ
なんなんだろうな
このループしているような帰結は
とふと思う
もちろん知人友人等が全くいないわけではない
ただ
二十年以上日常寝食を当然の如く共にしてきた家族
との絆が切断され
全く音信不通になってみると
夜中や朝方眼をさました折など
三歳のあの認識を現実に生きている
というより
生きるように仕組まれている
とひしひしと実感する
冷えきった身体で
時に発作的に叫び出しながら
闇の空間に手を伸ばし〈ナニモ・ナイ〉というリアルを実感する
それは
実に空虚な濃密さ
だ
今の私が
いや人間が
何か大切なモノとの
緊密な関係を断ち切られ
剥き出しで世界に曝されている
という広漠とした予感に充ちた恐怖
私がこれまでの自分の人生で
断続的に体験してきた
もう一つのリアリティの深淵を