サーチライト
塔野夏子
窓を開け
口笛を吹くと
僕の小さな銀色の飛行船が
やってくる
僕は窓から飛び立つ
菫色の大きなたそがれの下に
輪郭だけになった街が広がる
街の一角から
空に向けて放たれ回るサーチライト
何をサーチするライトなんだろう
標的を知らないまま
回りつづけているのかも
しれない
時折僕の小さな銀色の飛行船を
掠めるけれど
かまわずに空中散歩
菫色の大きなたそがれが
濃紺に変わっていって
輪郭だけになった街の灯りが
幻のように美しく燦きはじめる
そして宵闇が深まるにつれ
存在感を増してゆくサーチライト
たとえ僕の飛行船を幾度掠めても
たとえ夜という夜の果てまで
くまなくめぐり照らしたとしても
標的は僕じゃない
見つかるのは僕じゃない
なぜなら僕は輪郭さえ
とうに失くしてしまったのだから