少しひねるだけで
竜門勇気


初めてのことが必要なんだ
やったことのないこと
触ったことのないもの
このまま行くんなら

誰かの答えを聞いても
先生の話を聞いても
お腹はふくれてくれない
このまま行くんなら

コインランドリー
ディスカウントストアー
誰かを待ってる人たちの
最後に行き着く場所

僕は乾かないタオルを
山ほど抱えたまま
安いウィスキーを
一本レジに運んだ

知らないことが必要なんだ
壊れたものが必要なんだ
大事であればあるほどいい
このまま行くんだから

自分の答えを探しても
結局どこかに正しい答えがあるんだ
無意味で楽しいクイズを
祈りながら解いていく

ガソリンスタンド
ドラッグストア
ついに諦めた連中が
踏ん切りを付ける場所

僕は壊れたカーラジオを
殴りつけて破けた皮膚を
覆うための布とウィスキーを
一本レジに運んだ

初めての事が必要なんだ
妄想の中で開ける瓶
空想の口の中で感じる味
一人で行くためには

雨は少しひねるだけで
やたらとたくさん濡らすんだ
だからほんの少しのつもりで
みんな傘を忘れて歩く

着心地の良かった服も
白く冷たい靴も
誰かとは歩かないと決めたときに
ずっと優しくしゃべるようになった

初めてのことが必要なんだ
行ったことのない場所
消えていく見送り
誰かを待ってる人の
がっかりした顔




自由詩 少しひねるだけで Copyright 竜門勇気 2022-06-01 09:53:41
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