すべての物達の、とある夕刻
山人

分別のない緑が、近郊都市周辺の山々を埋め尽くし、
風は暑さのためか、動くことを忘れたかのようであった
どこかに存在する点と点は害虫のように動き回り、
線を描かせてはくれない
摩耗した歯車が軋み始めている
名のない未来は確かに存在するのであろう
狂うほどの多忙さの積み重ねで、残ったものは戦意喪失と、
あの時の風のためいき
古い車の運転席と助手席には、
失った時間とともに生きた二体の私たち

閉塞された山村の、夕刻を知らせるチャイムがなにかを急かす
おびただしい草草は、静寂の中に声も無く埋もれている
私はそれを飽きることなく眺めていた





自由詩 すべての物達の、とある夕刻 Copyright 山人 2022-05-29 18:03:44
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