花と終わりの迷路
木立 悟
光の文字を裏返し
水の警笛 真夜中の息
窓をすぎる 蛇の横顔
墨の季節 矢印の季節
朝も午後も夜もなく
曇りの音に満ちている
ひらくことのない雨の手のひら
冷えた線だけが降りつづく
曇を砕く武器が
青空の下に並び
翳り出すのを待っている
届かない伝令を待っている
階段の踊り場に置かれた造花
大砲の視線を向けられつづけ
夜を曲がり 夜を曲がり
星への報告を忘れつづけ
街角にひしめく機械には
水彩の匂いがたちこめて
ふらふらとまたふらふらと
無条件の幸福があふれ出す
常に揺れつづける世界を
花が覆っている
何かを言うたびに花は散り
何かを言うたびに世界は揺れる
にぎやかさ さびしさが水に映り
水は流れ まわりまわる
にぎやかささびしさは変わることなく
まわりまわり まわりつづける
虚ろな稜線と稜線の重なり
春の寒さに降りそそぐ糸
どこまでもどこまでもどこまでも蒼
何も聴こえない宵の径の端
膝の上に落ちる命
その軽さのために祈りつづけ
聴こえない雨 聴こえない夜
朝陽に溶ける壁を置いてゆく
器の重さに腕は沈み
光の粒のひとつに触れる
うたと花と笑みの迷路
器を持たない手のひらに咲く