それぞれの戦い(五)
おぼろん

エリス・ガザンデは包囲陣を完成させまいと、奮戦する。
「見よ、包囲陣の一端に穴が開いている。あそこを目指すのだ」
エリス・ガザンデは、味方のすべてに聞こえるように叫ぶ。
「あそこが、我々の救済の道なのだな」兵士たちは囁く。

しかし、事はエリスの思ったようには行かなかった。
彼の前に一人の男が立っていたのである。その名は、エミル・アザル。
「大将どのが真っ先に逃げ出すとは。アースランテも落ちたものですね」
「うるさい。我は、味方の兵たちの生命を惜しむものだ」

「あなたのお相手は、わたしがいたしましょう」
エミル・アザルは不敵にほほ笑む。その微笑に、エリスはぞっとした。
そして、死を覚悟する。「この男は……強い」、と。

「これより、全軍の指揮はゴゴイス・リーゲに任せる。
 わたしは、全精力をもって、この魔導士を切り捨ててみせよう」
それが、エリス・ガザンデの最後の命令だった。


自由詩 それぞれの戦い(五) Copyright おぼろん 2022-05-07 16:44:57
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