愛読者
やまうちあつし

その人はよく読む
新聞・広告の類はもとより
ゴシップ雑誌から哲学書まで
どんなものでも選り好みなく
目的は特にない
賢くなりたいわけでも
褒められたいわけでも
ただ
愛を探すように
ページをめくる
言葉の端々に
改行のタイミングに
配置される図版に
見落とされた誤植にさえ
愛を
深夜のキッチンテーブルで
早朝のマクドナルドで
一心に読みふけるそのさまは
古代ギリシャの彫像のよう
やがて噂が広まる
この世の書物はすべからく
その人に読まれることを待ち望む
見出してもらいたい
宿されたものを
聖書から競馬新聞まで
数学書から詩集まで
感想は特にない
よく生きるとは
よく読むことだ
とでもいうように


自由詩 愛読者 Copyright やまうちあつし 2022-05-06 13:49:57
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