私たちの近道
りす

たまには近道を通ったほうがいいと
私の手を引いて 導く人がいる
私は
どこかへ行こうとしているのか
どこかへ帰ろうとしているのか
その人に 手を握られ 腕を引かれた瞬間
わからなく なってしまった

その人の手は小さくて 強く握ったら
ウズラの雛ように 潰れてしまいそうだった
その人の手は冷たくて その冷たさを
恥じるかのように 指先だけで 私に触った

近道というのは 
近い場所への 近道なのか
遠い場所への 近道なのか

騒がしい空を見上げると
小鳥の群れが木から木へ 木から電線へと
忙しく飛び回っている
小鳥たちはみな片翼で
片翼なのに どうして自由に飛べるのか
私はその人に尋ねた
「鳥には考え事がないから、」
空を見上げて その人は言った
「かわいそうに、今日も明日も 飛べてしまうのね」

かわいそうな鳥たちの 楽しそうな鳴き声は
夕陽に焼かれるように しだいに遠くの空に消えて
その人の顔や体も 暗がりに輪郭を無くして
わずかな手の感触だけが その人と私のすべてになった
わたしはその時 遠くへ行くのだな、この人と
と理解した けれど
冷たい小さな手を今も 握り返すことが できないでいる




自由詩 私たちの近道 Copyright りす 2022-04-29 13:46:18
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