暗がりで手を洗う
中田満帆
暗がりでくそをして、
暗がりで手を洗う
洗面台にも、
浴槽にも、
魂しいのおきどころが見当たらない
たしかなものはタオルだけで
そのタオルもひどく汚れてるのはいったい、
なぜかなのかを思索してる
かつて保護房の拘束のさなか、
看護人どもの見守るまえで
くそをさせられた辱めを懐いだす
あのときの怒り、そして諦め、
すべての人生でもっともむきだしにされた悪意と便意
見いだされたもののなかでもっとも無様なおれ
恍惚のない不安とともにいまでも、
いまでも取り残されるおれが
この室で静かに叫んでる
人間性よ、
おまえはおれを見殺しにした
可読性よ、
おまえはおれを縛りつける
どうやっても人生が理不尽さにあらがえないときこそ、
アルコールが必要なんだって、
おれはおれにいい聞かせて来た
だって社会はもはや閉鎖病棟そのもので
だれもが病衣を着て歩いてる
だれが医者で、だれが患者かの区別はもはやない
おれは水を流した
便秘のブルースを歌う、ジェイ・ホーキンスみたいにいつか、
黒魔術を使って、あの医者や看護人どもを殺したい
そして血に滲む愉楽のなかで、
ちょいと千年ばかしの夢を泳ぎたいんだ
こいつは赦されるだろうか?
──もちろん。