海に還る
大覚アキラ
生まれたのが
海の近くの
とても小さな町で
だから
海の見えないところにいくのが
怖い
波の音とか
磯のにおいとか
塩気を帯びた風とか
わたしの細胞のひとつひとつが
そういうものに
縋って生きているのだ
(真夜中に海辺に出て
誰もいない砂浜を歩く
湿った砂を踏みしめる感触を
足の裏で確かめるように
味わうように)
誰も住む者が居なくなって
まるで
廃墟みたいになってしまった
あの海のそばの家の壁には
わたしが描いた海の絵が
まだ貼られているのだろうか
わたしの描いた海が
どれだけ色褪せてしまっていたとしても
わたしの中の海は
永遠の青に染まっている