不憫な子 そう呼ばれたかった大人たち
ただのみきや

鳥たちよ

ヒヨドリが鳴いた
喉を裂くような声で
天のどこかを引っ掻いた
それでも皺ひとつ寄らず
風の布は青くたゆたい
樹々の新芽を愛撫するが
ささやき返す葉はまだない

公園の水たまり
スズメとヒワが入り混じる
おしゃべりはつきないようで
足下の空をゆらしながら
小さな舌を潤している
いま嘴と嘴が触れた
相手を自分とは気づいていない

冬は去ったばかり
装う間もなく春はまだ殺風景
風は少しぬるくなった
水はまだそうでもない
だが鳥たちは満喫している
生垣を出たり入ったり
歌うようなおしゃべりで

きみが歌手なら語るように歌え
きみが詩人なら歌うように語れ
翼を切られて 籠の中でも





寝ても覚めても

朝の爆発的な光の中では
瞳の容量を思い知らされる
一瞬で飽和して
もうなにも見る気がしない

暗闇では別だ
それは宇宙に繫がる深い井戸
物音や匂いまでが像を結ぶ
沈んでゆく指輪の質感を追うように

シャッターを下ろした後も
燭台は灯る 静かに水の中のように
太陽はもう眩しくはなく
記憶の砂地から人々は起き上がる

目を覚ませばまた光の強権
目は口ほどにものを言わない
だが口よりもよくものを食う
貪婪な美食家? いやいや雑食





球根

沈黙が肥え太り
 二人はやせ細る

 瞬間は落下し続ける
ホルマリン漬けの壜

静止の中にある永遠
 万物が関係性を忘却した

 二人は別の宇宙に根を張っていた
葉の形はよく似ていたが

向き直ることの煉獄から
 無関心の涅槃へ

 一羽の鳥はひとつ心臓
目覚まし時計はひとつの死

脳の中で叫んでいた
 沈黙が 破水する





影法師

影 影 影ふみあそび

動きはわかっても表情はわからない

決断は見えても葛藤は見えない

理想は見せても打算は見せない

ことばは影 こころの影

追っているのは誰かの影でも

巡っているのは自分のこころ



                    《2022年4月17日》










自由詩 不憫な子 そう呼ばれたかった大人たち Copyright ただのみきや 2022-04-17 12:29:30
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