銃で撃たれた男のために
オイタル

銃で撃たれた男のために
飾る言葉がどこにある
(かまびすしいテレビの前に
 ぼくたちはたくさんの種類の
 花束を並べた)

戦場に独り突き立った銃に
花びら いちまい
(泥に隠れた弾倉に伸びる
 幼い指が震えている)

銃身はやがて言葉を覚え
銃口はやがて東に首をもたげ
銃床はやがて旋回して西に視線を伸ばし
(南にそれから北に
 くちびるに悲しい彩りを乗せて)

 ずっとそうだったじゃないか

 輸送機から地面に撒かれたその銃は
 いずれ芽を吹き葉を広げ花を咲かせ
 熟して一斉に銃弾を叩き込むんだ
 けたたましく笑う青白い旅客機に
 肥満して足取りも覚束ない輸送船に
 コーヒーの香り立つ巨大なビルに
 一斉に照準を当てて

 己を地に撒いた恩人たちに向かって
 言い知れぬ憎悪の射程を
 ずっとどこまでも伸ばしていくんだ

 ずっとそうだったじゃないか

銃で撃たれた男のために
許される言葉がどこにある


自由詩 銃で撃たれた男のために Copyright オイタル 2022-04-15 20:04:58
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