明日消えていく空のことを
ホロウ・シカエルボク

明日消えていく空のことを
僕は果たして君に歌えるだろうか
明日消えていく風のことを
明日消えていく雲のことを

どこか遠くの
台風のせいだろうか
たえず眠気がやって来る
停滞の自室で
信じられるものも特になく
保証される約束も特になく

僕たちは暮らしのためだけに
生きる愚かものにすぎなかったのか
僕が抱えているものは
砂粒ほどにも重要ではないのか
時折は僕の命さえも
その秤の上で邪険に扱われるのか

きっと寝ぼけているだけなのさ
このまま悪夢でも見て
朝までに何度も目が覚めるのさ
そんな夜ってあるものだ
無遠慮に寄ってくるおぞましい虫のような

明日消えていく空のことを
僕は果たして君に歌えるだろうか
明日消えていく風のことを
明日消えていく雲のことを

僕の言葉はもう
どこにも届かなくなったのだと
ブロック塀に当たって刺さりもせず
ぱらぱらと落ちていくおもちゃの弓の矢のようなものなのだと
僕は知らぬ間に
この部屋で化石にでもなったのかもしれない
生温い風がシャツを揺らしていく

目元の奇妙な痒みとパプリック・イメージ・リミテッド
ヴェルヴェットを纏ったルー・リードにでもなりたかったの、ジョン?
思いつくままに投げ出されたような完成品
こんな1日の終わりにはきっと似合いなんだろう

短い夢の中で僕は
ハープを叩き壊しながら血を流していた
そこに張られた弦が全て
僕の毛細血管だったと気づいた時には手遅れだったんだ
ねえ、血まみれの指じゃピッキングなんて出来ない
ただただ指が弦の上を滑っていくだけなんだ

夜の始まり、街の終わり
夢と現実のカット・イン、カット・アウト
通り過ぎた影は知り合いのようにも全くの他人のようにも見えた
僕は視界に意味を持たせないように歩いていただけだったから
そしてなにかに誘われて振り向いた瞬間に
そこには存在なんてものはなかったんだって気づくのさ

明日消えていく空のことを
僕は果たして君に歌えるだろうか
明日消えていく風のことを
明日消えていく雲のことを
そうして朝日が新しい意味を持つ時
僕はノスフェラトゥのように灰になるかもしれない
風が、ねえ
僕の身体を次々と舞い上げて
あたりはちょっとしたセレモニーみたいだ

知ってるかい
灰って意外と
たくさんの影を作るんだぜ


自由詩 明日消えていく空のことを Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-04-12 10:02:16
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