君の癖
桜 歩美

君が眠るとき欠かせないもの
それはお母さんの小指の爪

君はいつもお母さんの小指の爪を
小さな指でさすりながら
口をチュッチュッさせて眠りにつく

お母さんの小指をさすり始めると
お母さんは君が眠いことを知り
口がチュッチュッと音を立てると
もうすぐ眠りにつくなと思う

お母さんは毎晩君のチュッチュッという
舌を鳴らす音を聞きながら
胸がキューンと切なくなるの

君がそんな風に眠るようになったのは
お母さんが君に母乳をあげられなかったから

お母さんは持病があって
毎日お薬を飲まなきゃ生きていけません
だから産婦人科の先生に
「母乳は3週間しかあげてはいけません」と
言われてしまいました

君にお薬の成分まで
飲ませてしまうことになるからでした

でも小さな君は
いつもおぎゃあと叫びながら
お母さんのおっぱいを探していたのです

哺乳瓶が嫌いな君でした
だから一度にミルクを全部飲むことが困難で
一日に何十回もミルクを作り与えました

やがて君が成長し1歳になったとき
ミルクを好まない君に栄養をつけるため
卒乳をさせました

でも夜寝る前だけは
君は哺乳瓶を吸いたがったね

ほんの1ヶ月でお母さんのおっぱいにさよならしたんだもんね
君のお口は淋しかったんだよね

卒乳してから
夜寝る前のお母さんの小指の爪をさすり
口をチュッチュッとさせる癖が始まったね

だから切なくなるんだよ
愛情が足りなかったんだと
おっぱいをあげられなかったこの体を
憎んで責めて

今でもその君の眠るときの癖が治らないことが
改めておっぱいを赤ちゃんが吸うことの
大切さを思い知らせるんだよ

お母さんはおっぱいの代わりに
君をいっぱいいっぱい抱っこしたよ
周りの人に「抱き癖がつくから止めなさい」といわれても
抱っこしていないと泣いて困ることがあっても
いつもいつも君を抱っこしていたよ

お母さんは君におっぱいをあげられなかった分も
君に愛情をその分余計に注いでいたつもりだった
でもまだ足りない

いつかなるべく早く君のその癖が抜けるように
これからもお母さんは精一杯君に愛を注ぐよ
いつもどんなときも君のことを想ってる
何よりも君を大切に想う
そして君を強く抱きしめていく

お母さんはおっぱいはあげられなかったけれど
君のことを世界で一番愛してる
この愛は誰にも負けないんだよ


自由詩 君の癖 Copyright 桜 歩美 2005-05-01 21:52:20
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