労働
山人

底冷えの日が続いている
夜明け前の除雪車の轟音に目覚め、ドアを開ける
階段のコンクリートの端をなぞるように雪を掻き落とし
人力除雪が始まる
ずっともうこんなことをやっている
固い空気が微動するのを感じる時だ

寂れた思考の湖は、波一つなく一隻の知らないボートが浮かんでいる
闇は深い
コトリとした音もなく、永遠と呼ぶにふさわしい水深がある
その無機質な湖に言葉を散らしていく

呪文のようにつぶやき、作業を進める
道路の端には、何度も雪を捨てに往復した足跡が
まるで、何十人が作業したようにその痕跡を残している
今はもう、それを消し去って降りつくしてほしいと願う

*

無機質で冷徹な冬だ
太陽ははるか彼方にしまい込まれ
あたりは青い狂気に覆われている
狂っているから俺も狂うしかない
さらに燃えてやる
ぶちまけられた現実に愛しくキスしよう
打ちのめされた殴打を抱きしめよう
青く沈んだ痣をなめれば塩辛い鉄の味がする
無偽に生きた年月だった
その代償は吐息の荒野だ
月を数えた
祈るように木を見つめ
花を瞼にしまい込み
また、おびただしい死骸を積み上げよう

*

雨と曇り空が続いた大寒からうつらうつらとまた雪が舞いだした早朝
まだ相変わらず夜は明けていない
居間のLEDがあまりにも明るすぎて
私の内臓や脳までさらけ出されている
壁際に押し付けられた焦りは、すでに発光することもない
また今日も名もない呪文を唱えながら
毛をむしり取られた獣のように作業する
一日は始まる。そしてまた私は演じ続けるだろう

*

空が重く垂れさがっている
泣きそうな重い空気が地面に着陸しそうになっていた
野鳥は口をつぐみ、葉は雨に怯えている
狂騒に塗れたTVの音源だけが白々しく仕事場に響く

悪臭を放つ越冬害虫が空を切る
その憎悪に満ちた重い羽音が気だるく内臓に湿潤するのだ
不快な長い季節の到来を喜々として表現している

こうして、悪は新しい産卵をし
悪の命を生み続ける
不快な空間はあらゆる場面でも途切れることがなく存在してゆく

*

悶々としたものが、地面に近い高さに浮遊している
眼球の奥には、重い飛行物体がうずくように微動し
その微かなエンジン音が俺の体のだるさを助長している
だるい、確かにだるい
まるで俺自身が疲労の塊から生まれ
そのまま、無碍に時間を経過してきたかのようだ
アスファルトに地熱はない
地表が湿り気を帯び、室内の壁際は黙る
景色は前からそこにあったように平然とたたずみ、一枚の絵のようだ

*

目の前の仕事をこなしながら私の脳裏の中には目まぐるしい羽音が飛び交っていた
虫たちは羽音を不気味に立てて下に上に横へと縦横無尽に動き回っていた
私はそれに逆らうでもなく淡々と仕事をこなしていくしか術を持ち得なかった
午後には残照がまぶしく顔を照らし逆光となる
次第に重苦しく体は疲労し私は木に腰掛けて息を吐いた
また冬が来るという真実だけが重く厳しく悲しかった

*

正午近い、この薄光る昼時の、他愛もない、この残酷な時を過ごしているのは私だ
背負ってくれ、と鬆の入った骨の老母を背に階段を登れば
あたりには散らばった越冬害虫がひらりと身をかわす
まだ死にたくはないのだと、この晩秋の沈黙に漂うのは凍り付いた希望
正午になれば平たく重い時間が降り立ち
むごいほどの静けさは鉛の冬を暗喩する


自由詩 労働 Copyright 山人 2022-04-02 03:02:52
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