できるものなら僕は
山人

その日
僕の存在は失われていた
川は何もなかったかのように流れ
まわりの人々は息をし、笑い
変哲もないことを話していた

できるものなら僕は
思考さえ失われた
本能だけの野鳥になりたかった
まわりにある空気をとらえ
ほとばしる大胸筋で羽をひるがえし
撃墜されてもいいと空へと舞いあがりたかった

できるものなら僕は
引力に逆らう事のない
川の水になりたかった
命の存在すらもないただの水となり
母体のような海に還りたかった

できるものなら僕は
駐車場にたたずむ重機のように
寡黙で冷たく鉄のような頑なさを持ちたかった
なにものにも左右されず
たしかなものにしか反応しない無機物のように

できるものなら僕は
季節をもろともしない木になりたかった
ただ生きることのみをひたすら考え
何も考えないことを考え
自我を求めず
ひたすら立っていたかった

できるものなら僕は
人のように普通に反応し
怒り、激昂し、わめきたかった
狂い、憎み、破壊したかった

できることは
僕には
ただこうして
書くことしかできなかった


自由詩 できるものなら僕は Copyright 山人 2022-03-31 06:06:22
notebook Home 戻る