爪なんていらない
竜門勇気
奴隷みたいに働いてる
壊れたものを直してる
いつまでたっても時間はなくならない
終わらない時間の果てで
思考する空間になる
奴隷みたいに働いてる
僕にはすべてが人間に見える
壊れた奴隷みたいなものが
壊れたものを直してる
せめて奴隷になれたら
ユートピアの暮らしで
何度も実験された結果
何かを壊さなきゃ僕らは生きていけなかった
だから幸福に照らされた顔をして
その影で君たちを壊し続けた
人間らしい生活をするために
何が自分を作って
何が自分でないのか知るために
欲しくないものを与えて
大事なものを奪い続けるしか方法はなかったんだ
悪いな
恨むなよ
そうやってぶっ壊されたものが僕のとこに来る
もう一度ぶっ壊すために治す
きちんと治す
ちゃんと無茶苦茶にされたらぶっ壊れるように治す
僕は君の味方なんかじゃない
敵ですらない
直してぶっ壊す永久に続く地獄の一匹の鬼だ
奴隷みたいに働いている
奴隷みたいに歩いたら
奴隷になれるのかな
人間たちが人間であるために
君はただぶっ壊されたんだ
そしてここで次に壊れるまで
黄昏の中を過ごす
夜が来るまで
暇つぶしみたいに不安定に
笑える話を僕と探し続けるハメになる
君のぶっ壊れたところは
なにひとつ治ってないけど
まあ、知らない人が見たらわかんないよ
だから行きなよ
そうやってこの地獄のそこから
また落ちるだけのものをみている
棘立った岩に必死で爪を立て
転げ落ち血まみれになりながら
ただ登る力だけを与えられて
悲しいけどそれが僕らのやり方だ
ここにいる限り逃げられない役割だ
ここにいる場合に限って
君をぶっ壊したやつは
なにひとつ変わってないけど
まあ、これからも変わんないよ
だけど行きなよ
次はもっと這い上がり方がうまくなる
ほらあそこ、まだ君が何ヶ月も過ごした場所さ
乾いた血溜まりがまだあるだろ
あれからあそこまで行くやつも最近いないし
雨もふらない
もういっぺん行くだろ?
ここまで落ちてきたんなら
じゃなきゃどっか別の場所で会うはずだ
爪なんていらない
痛みも血も必要ない
コツさえ掴めば
奴隷みたいな暮らしは楽だぜ
奴隷になるまでの僅かな時間
しっかり麻酔の聞いた盲腸の手術みたいなもんさ
それでもあんたらは登ってく
誰かが人間らしくあるために
ぶっ壊されるために
ここよりマシな場所はいくらでもあるのに
僕のとこに来て
深い場所をまた壊す
役割が違うだけで
僕も君を壊してる
なにか意味があることなのだろうか?
君をぶっ壊すためにたどる道の中で
何度も思うよ
剥がれた爪が足元に転がって
拾うまもなく
君は落ちてくる
なにか意味があるのか?
奴隷みたいな歩き方を
奴隷みたいな喋り方を
奴隷みたいな考え方を
奴隷みたいな生き方を
君に仕込むたび頭がおかしくなりそうだった
でも君はちゃんと奴隷になろうとしてくれる
まともなヒーローがどこかにいたら
きっと一番に僕のとこに来るだろう
最悪の毒はここにいる
爪のない指をみながら
爪のない手をふる
最悪のクソだ、おれは