ごんごちー
ちぇりこ。

六月の水で世界が浸される頃
どろどろに泥濘んだ地面から
ごんごちーが現れて
悪い子どもを地の底へ引くんだって

「ばあちゃんがゆってたもん!」

赤い顔をしながら稲村さんは言う
今日は青い空の顔が青い空だから関係ねーし
吉田くんがそう言うと
稲村さんはボール球を四球見送って、振り向きもせず家へと帰って行った
まだ夕方の五時のサイレンが鳴る前だってのに

ごんごちーの話ならぼくも知ってる
悪い子が後を絶たないのは、ごんごちーの不徳の致すところ
とか思って地面が泥濘むまで大人しくしているタマでは無いし
悪い子は代々この集落からも量産され続けている

眼の悪いよしみ屋の店番のばあちゃんに
手書きの当たりのアイスの棒で交換していた原田くんも

川上さんちの犬にマジックで眉毛描いてた林くんも

弟の野球グローブを勝手に使って勝手に無くして知らん振りの上田くんも

窓開けてうたた寝していた野田さんちのじいちゃんに、爆竹を放り込んだ木村くんも

若い新任の女先生の下着の中に手を突っ込んで泣かせてしまった山本くんも

田中くんも、中村くんも、伊崎くんも
みんなごんごちーに引かれてこの集落から姿を消して行ったんだ、って
小学校の卒業以来、数十年ぶりに偶然出会った稲村さんと立ち話しているぼくは
稲村さんの足下を
ごんごちーが泥濘んだ眼を光らせながら狙っているのを見た気がした


注)・文中に出てくる個人名は全て仮名です。

注)・ごんごちー、地域に伝わる正体不明の物の怪の類い。


自由詩 ごんごちー Copyright ちぇりこ。 2022-03-20 10:53:12
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