「万華鏡」  【やったよ!100行連詩】
ベンジャミン

散らかした記憶をかき集めるようにして
作った万華鏡を
揺さぶってできた小さな窓の中には
ゆるゆると回転する色彩

現実はいつも空回りしているから
わたしたちはいつも何かを求める
それは留めておくことのできない美しさと
焼きついてしまう記憶に似て
向き合った矛盾を浮かびあがらせている
裏表があるのが人間だとあなたは言う
鏡の前に立てば振り返ることを忘れてしまう
こぼれつづける思い出の中
置き去りの自分がかたちを求めている
輪郭のない影の群れは
それでも一筋の線によりそって
光の中できらきらと踊る

自分の心をのぞきこむことはとても恐ろしいのに
導かれるように手にとると
(映っているのはもしかしたら)
鏡は疑問と反射を繰り返し
追い詰められたあなたを美しく見せようとするけれど
声は繰り返す
閉じ込められた部屋の中で木霊する
振動するガラスに合わせて揺れる光
真実は見つけるまでもなくただそこに在る

よぎった色を探す
その色が思い出せないことに気づく
辿る小石はもうなくて
向きの違う足跡に惑わされてしまう
大きな足跡のそばに小さなもうひとつの
(それは足跡ではなかった)
ひっかくような傷を残して
あなたの手のひらに浮かび上がるその
空の色にも似た静かな青さは
あなたを救おうとしているのかもしれない

それは少しだけ青い鳥に似ていた
広げた羽に浮かび上がる光の群は
万華鏡のようにゆらめいて
夢のような幸せを描こうとするけれど
手を伸ばそうとするそばから薄れて
まるで何もなかったかのように
日常へとかえってゆく
そこにはもう一人のあなたが
鏡の中の静かな微笑のように
嘘を覆い隠そうとしているれど
その口元からこぼれだすいくつもの欠片が
言葉になりきれずに涙にかわる
一粒でガラスは静かに溶け始め
閉ざされた部屋にわずかな隙間をつくり
張り詰めていた空気が流れ出していく一瞬
解き放たれた色はあらゆるものに同化しながら
ついえた流星のように降り注ぐ
現実と夢の距離を縮めるようにして
たぐる糸の細さに息を殺す王女のように
怯えながらも凛然と見つめている
その肌のように白い帆が風をまとうのを
見守る海のような眼差しで
冷たい王冠に身を震わせる
あなたの剣は天をつらぬこうと掲げられる
切り裂かれた空から落ちた星が
あの万華鏡のように視界を埋め尽くすとき
音をたてて水面に落ちる色は溶けて
過去を飲み込もうとするけれど
己の尾を咥えた蛇のように
すべてを打ち消すことはできない

王国が忘れ去られた後も糸は続いて
その糸にからむように影は集い
静かに静かに飛び立ってゆく
青色を取り戻そうと空に向かう
はばたきの音は遠い海鳴り
明日を呼び覚まそうとするその
太古からの輪唱は
輪廻を重ね受け継がれゆく悠久の流れ
薄れ行く影たちは風に吹かれ
新たな色をまとってゆきながら
やがて日々を描き出す光になる
去り来る者の王国にはそんないくつもの日常が
梢に灯る宝石のように数多の
それはあたかも万華鏡の中に散らばるあの
澄んだ生命の追憶として
忘れ去られたあなたを今につなげようとする
音もなく張りめぐらされた糸
その糸をつたう欠片が組み合わさったとき
組みあがる鮮やかなユートピア
少しの変化に彩られる日常を知っている
あなたの手のひらにも王国があることを
忘れないためにいくつもの色がある
焼き付けるために光がある

細かな穴を覗き込むのでなく
ひとつの空を見渡すように
裏も表もない眼差しで真実を透かしてみせよう
苦い傷でさえ真珠のようにくるんで
新たな傷に怯えることなく
心沈める鎧さえ捨てて

刻々と変わり続ける現実という万華鏡の中
向かい合い反射し続ける幾万の瞳が
それぞれの色を集めるとき

そこに吹くはじまりの風

   


自由詩 「万華鏡」  【やったよ!100行連詩】 Copyright ベンジャミン 2005-05-01 01:16:40
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