その花の名前を教えてあげて
秋葉竹
開演まえのテントでは
青色ピエロがにっこり微笑む
その花の名前を
だれか知っているのだろうか?
名もなくゆれる花
手の届かなかった高く綺麗な山の
いただきを拝ませてさえくれなかったこの街
の人人人、行き交う雑踏の中、頰伝ったのは
あのひとの吐息だったか?
ようやくこの夢の中の街を
出てゆくんだ長かったよね
最後の黄昏を泳ぎながら
私はいったいだれなのだろう?
私はいったいなにをやってきたのだろう?
神さまにも聴けない、じぶんへの
かつてあっさり一度答えの出た
照れ笑いしていた夢は砕けた
だから青色の光の中のピエロになったんだった
雨に濡れて駆けて行った彼女を
追いかけられなかった孤影
いっしょに生きてきた狭い部屋に、ふたり
青空に高く張られたテントを見上げ
微妙なピエロの笑顔でよちよち歩いて
忘れられないならおまえの負けだよ、だなんて
そのとき道ばたに咲いていた
花の色さえ思い出せないけど
あのときじぶんじしんの心の中に咲いていた
花の名前を
だれか知っているのだろうか?
終演無人のテントには
ただ風が吹くやさしく湿った