別れのために
ふるる
夜のとばりをバリバリとかじり
新しい鳥が生まれる
生まれながらにして重要
で不確かな自由を継承
ピカピカの街の看板に降り立つ
翼で指図する
お前はあっちでお前はあそこ
立っていればそのうち分かる
役目は俺を満足させることだ
くちばしを磨いで待つ
あの啓示やこのメッセージ
通話アプリで簡潔に
まだ早い、早すぎる、いや遅すぎて耐えられない
椅子でドアを殴っていると
ドアが勝手に開いてみんな逃げる
残された俺が悪いのか
逃げたみんなが弱いのか
別れのために用意した酒とキラキラしたスピーチ
無駄にはできないから鏡に向かって乾杯
色々世話になったなありがとう
あとは楽しくやってくれ
俺のことは忘れて
汚れた翼をたたんで待つ
どうして役目を忘れたのかと怒られる
どうしてもこうしても
だってみんなが弱いもんだからさ
何をしても不幸そうにしているからさ
とにもかくにも大きな花束は用意したんだが
誰のためだったんだろうか
領収書はもらってある
何のための経費だか
あげたら嬉しそうにしていたっけ
さらばとかあばよとか三文字の簡潔な挨拶で
その街は姿を消す
うつ伏せに倒れた看板だけが栄華を誇る
かつて
飛ぶ鳥を落とす勢いだったとか
しかし
それは貧しい者たちの優しい心により保たれていたのだとか
雀の涙ほどのお給料で
ふんだんに与えられたのは流行りの
明るく悲しい歌だけだったという
壊れかけの街のスピーカーからはこんな歌
君はかわいそう、君は悲しい、
だから君は生きている
それからけっこうな年月が過ぎ
散り散りになった街の住民達は
相変わらず叶わない美しい夢を見ている
空飛ぶ自転車に乗りたいとか
月までの虹をかけたいとか
波の言葉をわかりたいとか
そういう類の
また街がやいやい言ってきたらこんなふうに返事をする
もう君は私たちなしで平気だろうと
むしろ私たちが君たちの自立をはばんだ
餌すら口元に置かないと食べなくなった蚕のように
それで街はすごすごと通り過ぎる
綺麗なレース編みの肩掛けをぷらぷらさせながら
それは親切な人が大切に編んでいて
欲しそうに見ていたらくれたんだった
何でも欲しがるしすぐに命令したがるけど
本当に欲しいのはきっとそれじゃないよ
しばらくは冷たい雨で
それが過ぎたら冬になる
こんなレースじゃ寒いままだけど
綿花の摘み方さえ知らないんだよ
積荷がゆっくりとおろされて午後には晴れ
責任者が出たり入ったり
ありがとうもごめんねもただ言ってるだけで
アップルパイがどうのとか相談していたけど
うなずいてる方はもう飽きている
うわのそらで空を見て
あのたわんだ雲はなんて名前
風にさらわれた蜘蛛の巣が通り過ぎる
何かの準備が始まりそれに追われていて
この靴でステップは踏みづらいと
裸足のお姉さん達が文句を言うので
また街の人たちが駆り出されて
そこはこうすれば良いみたいな話をする
それで万事解決とはならなかったけれども
結婚式には間に合ったので良い
スープの事は言ってたっけ?
冬だからスープとおすすめされたんだ
そのスープは最初に石を入れといて
みんなが食材を足して
最後はすごく美味しくなったらしい
森のリスさん達も来て
クルミの殻におすそ分けしたんだって
クマさんは腕を怪我していて
なんか痛そうにしていたみたい
赤いバッグを下げていたみたい
こっちにおいで
季節は瞬く間に過ぎて
住民もみんな代替わりして孫たちが
何も知らずにまたいいようにこき使われる
それでまたまた街は消える事になるんだけども
レース編みの技術が残っていて
博物館にも寄贈されていて
一大産業になったなんて何が幸いするか分からないな
レース編みは皺深いおばあさんたちの趣味にもなり
それはそれは色んなものが編み込まれる
夕焼け空
鹿の角
倒れてるひと
蚕
とり
別れの言葉
はい
、
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涼しい木陰でレースを編んでいると
村の若者がやってきて結婚しようと言う
からそれはベールになり
おばあちゃんになってもまだ編み続けている
完成してはまた編む
また
そのうち根っこだけじゃなくインターネットや量子ロボットが地球を覆って
さながらレース編み
あるいは蜘蛛の巣
もしくは蚕の繭
千切れてはつながり
やっぱり色んなものが編み込まれる
理想や
空想
喧騒
伴走
葬送
どうしても一人では無理だから
みんなで編んでやっと一つの作品になる
そのうち
どこかの星がやってきて結婚しようと言う
からベールになり
結婚式には沢山の参列星
熱い太陽の前に進み出て愛を誓う
そうして長い旅が続き
今では時空を行き来できるし
次元を編んだりもできる
歳もとって
見守るのが仕事になりつつある
こんなふうに語るのもバトンタッチしていい頃だ
もう休みますねって言っていい気がして
うつ伏せで倒れていたら
これをこうして編んだらいいんじゃないかと
上で誰かが言う
それなら空を飛べるし月まで虹もかけられるね
それに波の言葉も分かる
名案……賛成……とみんなが手を叩き
それがやがて手拍子になり
誰かが歌詞をつけて
別れのための歌になった
1、2、3、はい、