メモ
はるな


部屋のなかにいて、やるべきことをあれこれと思い浮かべていると、とつぜん頭のなかがきゅんと鳴って止まってしまう。窓の向こうの方の白い建物に陽が当たってまぶしいさまや、風どうしがぶつかってひゅうひゅうひゅういってること、クッションに残されたむすめの形のへこみ。そういうものが、あんまり良いので、止まってしまう。春からまた違う街へ行くことになった。

結局この家もさして自分のものというふうにはならなかった。三年いた職場も。ただ、買ってきた花の茎を揃えたり、枯れた葉を摘んだり、いくつかある鉢植えを日当たりの良い場所へ動かしたりするときは少し気持ちが寛いだ。そういう時間のなかには場所があると思う。花はただ咲くので。
何も本当に自分のものではないと感じる。場所や時間や、自分の体も、べつにわたしのものではないと思う。(思うとき心はちょっと自由)。ときどきちょっと、居られる場所があって、そこで起こった物事はみんな大事だな。わたしは未来を思うことがぜんぜんできない。いつも過ぎてきた時間や終わった物事について考えている。

この十年で六度目の引越になる。すこし遠くへ行くので、日当たりの良い部屋を選んだ。
体を遠くへ運ぶのは良いことだ。せいせいする。何も自分のものではないと感じる。起こった物事を大事にする。ときどきちょっと居られる場所がある。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2022-02-21 09:37:43
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