川には流さない
竜門勇気


電車に乗って
どっかにいこう
部屋の中で地図を見て
そのままでかけよう

いつのまにかはぐれて
もう二度と出会わない
あの地図はどんなに悲しくなっても
川には流さない
あの玩具の船みたいにはしない

一緒に飯食って
違う食い物を
黙って食ったら
そのままでかけよう

ちゃんと見失いあって
思い出すことはあっても
もう二度と一緒に過ごすことなんて望まない
あの二人の時間は終わった
あの玩具の物語のようにはしない

電車の中はやたらと音が多くて
言葉を思いつくのに時間がかかる
思い返してみれば俺たちは
ろくに言葉なんて使ってなかった
厄介なのはお互いおんなじさ
ベタついた意味が投げつけられて
黙り込んだままレールがきしむ
投げつけられたクソのかけらが
ほっぺたで固く萎んでる

ほらここだ
川についたもうここで終わりだ
もう少しで海だよ
でもあそこまではいけない
腐ったものを大事にしよう
もうこれ以上変わらないものを

歩いていく
腐っていく腐っていく
振り返っても誰もいない
最初から一人だったのさ
最初から最後まで変わらないように
大事にしてたんだ ほっといてたんだ
もう誰にも出会わないように
小さな瓶で酒を飲んだ
赤錆の浮いた橋を電車が走る
俺たちは誰かとはぐれた
そのままどこかに帰っていく

文字の消えかけた領収書の裏に
忘れないうちに手紙みたいなものを書く
入れ物を作るために小さな瓶を空にする
手紙みたいなものは汚れた紙切れになった
それを瓶の中に押し込んで
自分の頭がおかしくなった気がした
力いっぱいスクリューキャップを締め込むけど
川には流さない
川には流さない
海までは連れていけない気持ちを
どこかに持ち帰る



自由詩 川には流さない Copyright 竜門勇気 2022-02-21 00:25:50
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