ノクターン
ただのみきや

水辺の仮庵

月は閉じ
口琴の瞑る仕草に川の声
白むように羽ばたく肌の
ふくらみこぼれる光は隠れ
ふれて乱れたこころの火の香
探る手をとり結んだ息に
ふりつむ静寂しじまふつふつと
耳から臍へ金の鍵
獣のぬれてすべる調べに
待てずに満ちて
羽虫も爆ぜる枕辺の
唾におぼれた睦言は
ぬかに咲いてはしなりと落ちた
歌の行方に欹てて
見上げる舟の櫂たおやかに





不動の沈黙

響かない空に磔刑にされたままの
青春の襤褸にモザイクがかけられる
美人だけどよそよそしい
月は環状線に乗って
影がいくつも身投げした
棄てられたカードのように
脱いでも脱いでも裸になれない
青いガスの花を見続ける
少女に言葉は通じない
空に捕縛された地の古の貪婪に
毛皮をそっと撫でるよう
男のことばは去勢された夢
煙の手癖むすんでほどけて





走り書き

その時間は蝶のように
わたしの微睡みに止まっていた
手をのばすとそれは逃げ
二度とは戻らなかった





ノクターン

傷口は夜だった
川で洗うように冷たかった

星たちの片言
瞳で火の粉は異なる音で鳴った

あなたは溶けた
すべて言葉ではなく涙となって

わたしは堪能した
螢を包んだクシャクシャの手紙



            《2022年2月19日》









自由詩 ノクターン Copyright ただのみきや 2022-02-19 17:02:31
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