立春
ちぇりこ。

何もかもが
ゆるされていくような
冬のおわりの鍵穴を覗くと
幼い春が
喃語でつかまり立ち
(あ、ぶぅ。)
ひらかれてゆく胸のうちでは
とても鼻のきく仔犬が
雨をより分ける

雨上がり
土から生まれた子どもたちが
にょきにょきと遊んでいる
泥だらけの腕を
あんまりぐるぐる回すもんだから
腕がすっぽり抜けて
わたしの靴に当たってしまった
くちゃ、と踏んづけた感触が
少し嫌だったので
帰りにスーパーで春の名のついた
魚を一尾買って帰った
腹を捌くと
少しだけ
雨と、冬の匂いのする

ぐったりと
光を失う魚の眼のかわりに
水分をいっぱいに含んだ
わたしは
春になるしかなかった


自由詩 立春 Copyright ちぇりこ。 2022-02-07 23:19:18
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