秋〜冬/短詩群
ちぇりこ。

「廃墟/光」

その人は
十月の淡い光がこぼれている
窓際に立っていた

下生えを啄む鳥たちが
驟雨の後に立ち去った庭で
透過性の
グラン・ジュテ
軽々と
その人は
超えてゆく

退化する光が教えてくれる
(かつて ここに 時間が
あった)

朝の陽が 射す
砕け散った夜を拾い集め
(いつか しぬために
うまれてくる 時間の
ための)

「書簡」

音も無く
積み重なる空と
ルチル混じりの雲間から
つめたい水を
生成する
朝の縁に腰掛けて
秋の結び目を解く鳥達との
団欒

無言のうちに
届けられた書簡を
開くこともなく旅立った
他愛もない会話の行方
取り残され
白い文字で記された
わたし達は
ちいさな
いちょうの葉のように
耳を澄ます

「立冬」

水の影が
日増しに薄くなっていく
母屋の軒下で
折り重なる
秋の死骸を踏みつけながら
血肉を分ける仕草で駆け抜ける
子らの背中越しで甲高く
(百舌鳥だ)
尖端に突き刺さる
干からびた時間のあと先にも
冬が立つ

「水母」

いつの間にか
背を追い越してしまった

透明な
青の中の 青へ

親しい人達の思惑が
交差点を行き交う度に
二足歩行の寂しい生きものが
胎内へと孵ってゆく
薄暮
膝を抱えて座る影の稜線を
水の影が ぼやかせて
悲しい指先で水脈を探り当てるように
また ひとつ背を追い越して

漂う 日々の




自由詩 秋〜冬/短詩群 Copyright ちぇりこ。 2022-02-01 10:03:04
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