ワクチン接種
幽霊

水を打ったように静まり返るとは、このような時に言うのだろうか。私はひどく硬直するのを感じた。ここは病院である。
 私はこれからコロナワクチンというものを体の中に入れるのである。率直に不安。十字架を忘れた。不安。
 チクッと一瞬。それからは麻酔を打った時のような、感覚の鈍化を感じている、気がする。そうしてこのワクチンという液体が身体中に広がっていると考え、恐怖で力が抜けた。

 病院の待合室はいつも殺伐としていた筈だ。それもそうだ病院とは不安感のプールなのだから。この待合室に満ち満ちているのだ。

 「マスクをもらえないかね?」男が言う。
受付の女性は困ってしまった。「えぇと…」
細い指が嵐のように棚の引き出しを開けていく。いずれ、ガタッガタッ、ガタリ、と突然のこと静けさを取り戻し、晴れやかな声が一つ、「あぁ、ありました。どうぞ。」
 虹を見た、美しい。

 約二週間後…私は2度目のワクチン接種に訪れていた。あの待合室である。私はまたしても十字架を忘れていた。不安。


散文(批評随筆小説等) ワクチン接種 Copyright 幽霊 2022-01-31 22:33:05
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