草野球速報
385
筋斗雲が東へ東へと流れる晴天の下
市民運動公園の野球場では
半刻ほど前に始まった試合が
にわかに動き出す
ノーアウト1塁で3番バッターは一発狙い
走者は盗塁を画策しているのか
まだ濃さを残す白線と
バッテリーを交互にチラチラ観る
スパイクでえぐれ始めたマウンド上
ピッチャーは堂々と振りかぶり
渾身の一球をキャッチャーミットに投げ込む
数秒後には水気を残した外野の緑を転々と
1塁側ベンチの歓声と
3塁側ベンチの怒号の中
ホームベースに生還した俊足
自慢げにハイタッチに向かう
グランドの隅には自転車が2台
傍らでカップルがバドミントンに興じる
二人の仲ほどにテンポよくラリーは続かず
表情が曇りだす
ライトスタンドには子ども連れの主婦たち
手作りのおやつが手渡され
水筒からコーヒーの湯気がたちのぼる
箸が転げても可笑しいらしい
センタースタンドからラジオの野球中継
ジャージ姿の初老の男性は
解説の一語一句に突っ込みを入れながら
時にぼやき時にニンマリ
レフトスタンドのベンチとベンチの狭間に
塾帰りの男の子たちが座り込んで
キラキラとした眼差しの先には
小さな戦場のセット
筆箱砲台から次々と繰り出される
鉛筆ミサイルの標的は
いびつな消しゴムを積み上げた
「タイリョオハカイヘエキ」
高々と舞い上がるファールボール
55度の太陽光に吸収され
悲鳴と視線がレフト方向へ
勇ましい戦士たちが少年に戻る
不規則にバウンドしながら
右往左往しやがて動きを失った白球は
ふたしかな未来のように身を潜めてしまう
探し回る駆け足と笑い声が
木々の緑に反響している
鳥の耳まで届いている