冬の寒がり
末下りょう
いつでしょういつでしょうと群衆をさえぎり時間がそぞろ歩いている
どこでしょうどこでしょうとひしめく透明に剥がれながら空間がそぞろ歩いている )
いつ冬は季節ではなく故郷になったんだろう
「考えがあるの」そうあなたが呟くとき考えなど何もないことのあられもない告白となった
何も映っていない鏡の色を知らないまま
何かを期待することもなく
酒臭くてだらしない返事を待つこともなく
汚れたランプの灯りを吹き消して
そこを離れ
眠りながら眠らない翼で灰をときほぐす伝書鳩が地上にこぼした文字を
拾い歩く
いずれ機会があれば もう生まれてもいないと
知らされる日を待ちながら
遠い異国を
夢見る網膜に雪は積もり
結露した小屋の深いところで死んでいると
三つめの冷え込む朝に
拾い集めた文字を並べ終え
それを凍えたゆびで無造作に裏返し
優美に生えそろう車輪に悴みながら紫色の花を売った
冬の国の
寒がり
( 空間の脱け殻を踏みしめるように なぜでしょうなぜでしょうと 時間がまた白い町をそぞろ歩いていく