思い出のフラれ女
板谷みきょう
「今夜、付き合ってくれない?」
それ程
親しい関係じゃ無かった
けれど
それが最初の切っ掛けだった
カウンターに両肘を着いて
トロンとした眼差しを向けて
グラスを傾けながら
ろれつが回らなくなってきて
「実はサ。アタシ、
昨日振られたんだよね。
アタシなりに尽くして来たし
彼とは、相性も良いと
思ってたのにサ。
…突然だヨ。
ねぇ。
ちゃんと聞いてるの?
イタヤ君が呑めない事位
アタシ知ってますぅ。
だぁからぁ。
アタシは、彼にィ
どうして振られたのヨ。
なんでだと思う?
ねぇ。
アタシって、
そんなにつまんないオンナ?
違うでしょって言うの。」
相槌も
返す言葉も空回り
ボクは、黙っているしか
術が無かった
紅い耳朶に
揺れるイヤリングを見ながら
ほろ酔いの振られ女の
慰め方なんて考えて聞いてたら
「アタシさぁ。
不感症なんだって。」
唐突に彼女が言う
『それはきっと、自己快楽に対して
不安や恐怖感、罪悪感を抱いてるからか
彼氏が乱暴だったり
もしかしたら
下手だからじゃないの?』
そう言いかけたボクは
それらの言葉を飲み込んで
『そんなことは、無いと思うよ。』
そう言った
「そうなんだって。
だって、アタシ気持ち良いって
思ったこと無いモン。
…そして
それが、振られた理由なの。」
何て答えたら良いのやら
解らないまま
『そんなことは、無いよ。』
もう一度、ボクは
繰り返して言った
探るような眼差しで
「それじゃあ。
試してみる?」
そしてボクは
据え膳を喰った
平岸の自宅アパートに向かうハイヤーの中で
ボクの頭の中は
GORO、スコラ、プレイボーイの
特集記事の丸暗記を
繰り返していた
優しい愛撫を繰り返し
ぬらぬらと
粘液に塗れた陰部を
刺激し続け
堪らなくなって挿入し
穏やかに交わり続けた
彼女は息を荒げているが
それ以上の反応が鈍く
ボクは優しく丁寧に
ゆっくりと出し入れを続け
一定のリズムで強弱をつけながら
それを繰り返していた
彼女が
絶頂感を迎えることは無く
逆にボクは
我慢できずに射精してしまった
急に彼女が
慌てて起き上がって
「えっ!?
中に出したの!」
そう言ったきたけど
心地良い疲労感のボクは
『大丈夫だよ。
パイプカットしてるから。』
そう答えた
結局
彼女に性的快楽と
絶頂感を味わわせることも出来ずに
朝を迎え早朝のすがすがしい
済んだ空気の街並みを
ススキノの朝のゴミ箱に
たむろする澱んだ烏に
戻って行った