あらたな詩小説の世界
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最近やたら難しい漢字を使った詩が多い。いちいち検索するのも面倒なので
、そんなものはスキップする。いったいこれらの詩の作者たちは何様なのだ
ろうか。有名な詩人のものなら、そんな手間をかけても読む価値があるだろ
うが、できるだけ大勢の人たちに読んでもらいたいなら、調べなければなら
ないような漢字などは使わない方がよいだろう。そんな中で、必ず読ませる
作品がある。田中宏輔氏の詩の日めくりだ。日付がいろいろあるが、一つの
作品だけでなく、詩の日めくりという作品群全体の話をしたい。

この作品がSFであると知るまで、ふつうの日記のような感覚で楽しんで
いたが、ありえない日付があるのに気づいて、作者に質問したところSF
ということがわかり、となるとこの作品はフィクションとなるが、読み
進めると実話が多いという、半フィクションのような特徴を持ち、また
その日付もおおむね矛盾のない時間の流れとなっている。というのも、
約一年ほど前の日付を持つ作品群が某所に投稿されており、このなかに
は共通の話題について書かれている部分があり、時間の流れからみて矛
盾が見られないのだ。

この作品が詩なのかというと、作者が SFであるということから、小説の
ようなものであり、またそのなかに明らかに独立した多くの詩がみられる
ので 、詩と小説の特徴を持つ新たなもの、しいていうなら詩小説をこの作
品で創造されたのではないかと思われる。この他にも作者は、全行引用詩
などの全く新しい分野を切りひらかれており、私も常々尊敬している。

前置きが長くなったが、この作品は難しい漢字もほとんどなく、すらすら
読めて面白い。その長さゆえに敬遠されることもあるかと思われるが、む
しろ普通の詩が短かすぎるのではないだろうか。歳をとると短編小説さえ
読むのが疲れてきてしまう。そんな時は詩が一番で、あまりに短い詩では
小説と比較してみて物足りなさを感じることがある。なんというか、物語
り的なものが欲しくなるが、詩のよさも欲しい。こんな贅沢な要求に、こ
の作品は見事に応えているのだ。どの日付でも中断でき、どの日付からで
も読み始められ、詩あり物語りあり、詩人の情報あり、日常生活あり、数
学あり詩の講義ありと、数えたらきりがない話で満たされている。







散文(批評随筆小説等) あらたな詩小説の世界 Copyright st 2022-01-20 05:44:01
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