ひとくちの
木立 悟
花に目をふせ
空を喰み
目の内の手に
空を聴く
花に 花に かたむく火
花に 花に したたる火
からだのどこかに揺れ育つ
ひとつの荊に耳すますとき
水の気配や光の気配
痛みの気配は泡へと変わり
花のかたちに浮き沈む
ひとくちの空から音は来て
少しずつ遅れて火に届く
重なるようで重ならず
さまざまに熱せられる分身を見る
新たに生まれるからだたちを見る
ひとつ ほどかれ
ひとつ ひらかれ
火の粉
火の子のうた そのままに
燃すもの燃されるものの姿を
花は花と過ぎてゆく
したたる色を拭き取らずとも
水彩の楽譜はめくられてゆく
ひとくちの空 ひとくちの火を
目の内の手に遊ばせて
花は荊を奏でゆく
荊は花を奏でゆく