風化する放課後の
ちぇりこ。

─まいにちうまれるものたちが
─まいにちしんでゆく

眠り、浅い夢からさめたような春の予感のする少しつめたい風が、名付けられているはずなのに誰も名前を知らない雑草の頭を、さあー、と撫でてゆく放課後に、足踏みオルガンを連れて旧校舎の裏側にある少しだけ整理された芝生のある空間に行こうと思うんです、感傷とかそんなことではなくて、旧校舎が取り壊されることを知った日からそうしようと決めてました、来る日も来る日も、つま先を踏んづけられて、ぶかぶか唄って、もう唄ってもいいんだよ、て ささやかに見届けてあげようと思ったんです

─かわらないもの
─かわってゆくもの

渡り廊下、子どもたちの群れが春の花の渦と同化して白い空間に吸い込まれてゆくその過程で、子どもたちは一まい一まい花びらに腰掛けています、ちいさな子どもたちは開花にはまだ早いので、白い箱の中に閉じ込めておきました、大切なものはいつだって白い箱の中にしまっておいたから、旧校舎の裏側にある芝生の上の百葉箱の心臓の内で、水銀を上げ下げする悠久の心拍数をメトロノームの代わりにして、アヴェ・マリアを唄ってください、ぶかぶかと

─おくこうねんの
─せいざのまたたき

〇月✕日
今日は星もなあんもない、ぽかんとした夜だったので、空に三角定規をあてて強めに線を引きました、血の通ってない つめたい星座ができました、だから足踏みオルガンを夜の空に寄贈してあげました、つま先を踏まれなくても、ずっと唄えるように
(風化する、放課後の黄金比。)




自由詩 風化する放課後の Copyright ちぇりこ。 2022-01-05 21:47:30
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